
WEB制作で考える:Illustrator(有料)とInkscape(無料)の違いについて調べてみました。
はじめに。
普段の制作業務では、主にAdobe Illustratorを使っています。
紙のデザインでもIllustrator。WebデザインでもIllustrator。動画編集でも素材はIllustratorで作って、PremiereやAfterEffectsで編集するなど、日々Illustratorを起動・使用しています。
FigmaでWebページのデザインをしながら、Illustratorで作った素材をコピペしていた時のこと。「これ無料で提供されているサービスだけでデザインができるのでは?」と思いました。
Illustratorの役割を、代替ソフトとして有名な『Inkscape』でできるのか。Illustratorユーザーの視点で、主にWeb制作で使う場合でIllustratorとInkscapeの違いを比べてみたいと思います。
▲アイコン
▲初期画面(Illustrator/Inkscape)
Adobe IllustratorとInkscapeの基本情報
Illustrator | Inkscape | |
---|---|---|
料金 | 有料(サブスク制) ・単体プラン:月額3,280円(税込) ・CCコンプリートプラン:月額7,780円(税込) | 無料(オープンソース) |
対応OS | Windows / macOS / iPad | Windows / macOS / Linux |
主要機能 | 業界標準のデザインツール 豊富なフォント・ブラシ 高度なカスタマイズが可能 | 無料で本格的なベクター編集 シンプルなUIで軽量 SVGデータに強い |
互換性 | Inkscape → Illustrator SVG:◎(推奨) AI:×(AI形式での保存不可) PDF:〇(開けるが制限あり) EPS:△(開けるが制限あり) | Illustrator → Inkscape SVG:◎(推奨) AI:△(古いバージョンなら可能) PDF:〇(ある程度可能) EPS:△(一部互換あり) |
その他 | 高度なデザイン機能と商業印刷向けソフト | 無料で使えるオープンソースのベクター編集ソフト |
互換性、実際のところはどうなんだろう?ということで、以前にIllustratorで作ったサンプルファイルをSVG形式で保存し、Inkscapeで開いてみました。
(左:元データ 右:Inkscapeで開いたデータ)
文字化けが起こっているので、フォントのアウトライン化さえしていれば大丈夫そうですね。
ちなみに、AIのバージョンを変えたり、PDFに保存してみたりしましたが、自身の環境下ではファイルを開くことができませんでした。。。。シンプルなデータなら大丈夫なんでしょうか?
それぞれの強み
◆ Illustratorの強み(プロ向け)
● デザイン業界の標準ツール
→ 印刷・Web・動画・UIデザインなど、幅広い業界で使用。
● 豊富な機能・ブラシ・フォント
→ IllustratorにはAdobe Fontsや多様なブラシ、エフェクトが搭載されており、より洗練されたデザインが可能。
● 複雑なパス編集が得意
→ 「パスファインダー」や「シェイプ形成ツール」で高度な形状編集がスムーズ。
● Photoshop・After Effectsとの連携
→ Adobe CCの連携がスムーズで、Illustratorのデザインをそのまま他のソフトに引き継げる。
◆ Inkscapeの強み(無料で使える!)
● 完全無料で使える
→ 個人・初心者でも気軽に導入可能。
● 軽量で動作が速い
→ シンプルなUIで動作が軽く、古いPCでも快適に動く。
● SVG編集に強い
→ Web用のアイコンやイラストを作るのに最適。
● IllustratorのAIファイルを開ける(※制限あり)
→ 互換性はあるが、レイヤーや効果が正しく再現されない場合がある。
IllustratorとInkscapeの機能比較
機能 | Illustrator | Inkscape |
---|---|---|
パス編集 | ◎ 高度なシェイプツール・パスファインダー | ◯ シンプルなパス編集機能 |
レイヤー管理 | ◎ 効果・グループ化が自由自在 | △ 多少使いづらい |
テキスト編集 | ◎ フォントの種類が豊富 | ◯ 基本的な編集は可能 |
SVG編集 | △ SVGは対応しているが最適化が必要 | ◎ SVGに最適化されている |
エフェクト・フィルター | ◎ 豊富なブラシ・フィルターが使える | △ 限られたフィルターのみ |
3D機能 | ◎ 3Dツールが充実 | × なし |
印刷用デザイン(CMYK) | ◎ CMYK対応で高品質な印刷が可能 | △ RGBのみ対応(印刷向けではない) |
Inkscapeは何回か使ったことがあるのですが、CMYKが未対応なことは今回初めて知りました。
※他のフリーソフトを使うことで、CMKYデータを作ることはできるようです
保存形式の違い:IllustratorはAI、InkscapeはSVG
Illustratorの保存形式はいろいろありますが、基本AI形式で保存します。

Inkscapeもかなりいろいろあるようですが、基本はSVG形式です。

SVGとは?
SVG(Scalable Vector Graphics) とは、スケーラブル・ベクター・グラフィックスの略で、ベクター形式の画像ファイルです。画像を数式で表現する方法で、線や図形(直線、曲線、円、四角形など)を基に作られています。
拡大縮小しても画質が劣化せず、軽量でWebページの読み込み速度にも優れているため、アイコンやロゴなどのシンプルなグラフィックに利用されています。特にアイコンやロゴなどは、SVGを使用する流れが一般的になって来ています。
IllustratorとInkscapeでのSVGの扱いには以下の違いがあります。
ソフト | SVGの扱い |
---|---|
Illustrator | SVGは「外部フォーマット」(AIファイルが本来の形式) |
Inkscape | SVGがネイティブ形式(最適化された編集が可能) |
IllustratorではAIというIllustrator独自の保存形式でデータを保存し、SVGを書き出す場合は、データを「エクスポート」という形で書き出します。
InkscapeではSVGが標準フォーマット(保存形式)です。
そのため、作成した画像をSVG形式で書き出しor保存した場合の違いは以下のようになります。 IllustratorのSVGは、余計なメタデータやAdobe独自タグが含まれることがある。
Inkscapeは、SVGをそのまま編集・保存できるので、コードをシンプルに保ちやすい。
IllustratorとInkscape、それぞれに向いていること
目的 | Illustratorが向いている | Inkscapeが向いている |
---|---|---|
ロゴデザイン | 高度なパス編集・フォント加工が必要な場合 | シンプルなロゴを作りたい場合 |
ポスター・フライヤー | 印刷向けのCMYK対応 | 簡単なWeb用バナーならOK |
アイコン制作 | Web・アプリ用の細かい調整が必要な場合 | SVGアイコンを手軽に作りたい場合 |
Webデザイン | Adobe XDやPhotoshopと連携したい場合 | シンプルなボタンやUI要素を作る場合 |
イラスト作成 | ベクターブラシやグラデーションが豊富 | シンプルなイラストなら対応可能 |
もちろん、有料無料の違いがあるのでできることに差があるのが当然ですが、WebやUIデザインなど、シンプルなものの作成ならInkscapeでも問題なく作成ができそうです。
結局どっち?
〈 Illustrator 〉をおすすめする場合 プロのデザイナー(印刷・広告・Web制作など)
高度なデザイン作業を行いたい
Adobeの他のソフトと連携したい など
ただし… 月額料金がかかるため、制作量に対してのコストが気になる人には向かないかも?
〈 Inkscape 〉をおすすめする場合 無料でベクター編集を試したい
シンプルなアイコンやロゴを作りたい(Web制作など)
パソコンのスペックが低く、軽いソフトを使いたい など
ただし… CMYK非対応 なので印刷用データの作成には向かないこと、Illustrator形式(.ai)は読み込み時にレイヤー構造が崩れる可能性があります。
例えば、クライアントからパンフレットデータなどをもらってInkscapeで開いたら、デザインが崩れている可能性があること、見本としてPDFをもらって元のデザインを確認する必要がありそうです。
「ベクター編集ははじめてなので慣れたい」「まずは無料で試したい」なら、まずはInkscapeを使ってみて、必要に応じてIllustratorに移行するのがおすすめです。
Inkscapeで保存したデータをIllustratorで開くと、大きさが変わる?
以前にInkscapeで作られた完成データを提供され、Illustratorで開くとサイズが変わっていることがありました。元のサイズをお聞きしてIllustrator上でサイズ変更、とりあえずはOKということになりましたが、当時は原因がわからないままになっていました。
当ブログ記事をまとめている時に上記の事例を思い出したので、原因を調べました。
ソフト | デフォルトDPI |
Illustrator | 72dpi |
Inkscape | 96dpi |
IllustratorとInkscapeではデフォルトのDPIに違いがあること、SVGファイルにはDPI情報が含まれないことがあり、96dpiで保存されたInkscapeのデータをIllustratorで開いた場合、サイズが約1.33倍(96 ÷ 72)に拡大されることがあるようです。
InkscapeからIllustratorにデータを渡す際は、SVG形式ではなくPDFやDXF形式で書き出すと、サイズ変化を防ぎやすいとのこと。
自分への備忘録としてここに書いておきます。
最後に。
デザインツールを選ぶ際には、用途に応じて適切なソフトを選択することが非常に重要です。
InkscapeやIllustrator、Figmaなど、それぞれのツールには強みと特徴があり、プロジェクトの目的に合わせて選ぶことで、より効率的に高品質な成果物を生み出すことができます。
弊社では、WebデザインやUI/UXデザインをはじめ、さまざまなデザイン制作に対応しています。お客様のニーズに合わせたデザインのご提案や制作を行っております。ぜひお気軽にご相談・お問い合わせください。
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