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VR酔いの原因と対策|研修・訓練で酔いを減らす方法

酔いやすい人も、同じ内容の訓練を受けられるようにするために

体は1ミリも動いていないのに酔ってしまう。それがVR酔いです。

停まっている電車に乗っていて、隣の電車が動き出した瞬間に自分の電車が動いたような気がしてドキッとしたことはありませんか。VR酔いは、あの「動いていないのに動いた気がする」感覚がヘッドセットの中でずっと続いているような状態です。

「酔うのは乗り物に弱い一部の人だけでしょう?」と思った方も多いのではないでしょうか。ところが、2022年に発表された研究では、ヘッドセットで10分間のVRを体験した92人のうち65.2%が何らかの酔いを感じ、23.9%は重い症状が出ていました。つまり、研修にVRを入れるなら、誰が酔ってもおかしくないという前提で準備しておく必要があります。

こめかみを押さえて気分が悪そうにしている男性の写真に、「座ってるだけで…」「VR酔い」「原因と対策を解説」の文字を重ねた画像

この記事のポイント

原因は、目と耳の奥が感じる動きの食い違い
VRの中で進むと、目は「動いている」、座ったままの体は「止まっている」と感じます。この食い違いで脳が混乱し、めまいや吐き気が出ると考えられています。

対策は「人・コンテンツ・機器」の3つに分けて考える
座る・短く・こまめに休むといった使い方と、視点・加速・目印・コマ数に気を配った作り方で、酔いはかなり減らせます。

酔いやすい人には、PC画面で同じ訓練を用意する
モニターはVRより目と耳の食い違いが小さく、酔いにくい方法です。

01VR酔いとは?起きる仕組み

VR酔いは映像がきっかけで起きる乗り物酔いの仲間で、「映像酔い」や「VR sickness」とも呼ばれます。主な症状は、めまいや吐き気、頭痛、冷や汗、目の疲れ、だるさなどです。また、ヘッドセットを外したあとも、しばらく気分の悪さが残ることがあります。

そもそも人は、目から入る情報と、耳の奥にある前庭(体の傾きや加速を感じる器官)からの情報を合わせて、自分がいまどう動いているかを判断しています。

ここでVRの中で前に進むと、目は「動いている」と受け取ります。このとき体は椅子に座ったままなので、前庭は「止まっている」と感じています。つまり、目と耳の奥がそれぞれ別のことを脳に伝えているわけです。この食い違いで脳が混乱して酔いの症状が出るというのが、感覚不一致説と呼ばれる考え方です。

①椅子に座ってVRヘッドセットを着けた人、②目が「前に進んでる!」、耳の奥(前庭)が「止まってるよ?」と別のことを言う、③脳が混乱して、めまい・吐き気・頭痛などが起きる、の3段を矢印でつないだ図
図1VR酔いが起きる仕組み(感覚不一致説)。目と耳の奥(前庭)が感じる動きが食い違い、脳が混乱する

目は「進んでいる」と言い、耳の奥は「止まっている」と言う。VR酔いは、いわば目と耳のけんかなんですよね。

なお、感覚不一致説は最も有力な考え方とされていますが、仕組みのすべてが分かっているわけではありません。実際には、いくつかの原因が重なって起きると考えられています。

02酔いやすくなる3つの原因

目と耳の食い違いを大きくする原因は、主に次の3つです。

原因何が起きているか身近なたとえ
機器の性能コマ数が足りない、頭の動きに映像が遅れてついてくる、ヘッドセットが目に合っていないオンライン会議で映像がカクカクしたり、声と口がずれたりする
コンテンツの動き自分で操作していないのに視点が動く、急に加速・回転する、カメラが揺れる手ぶれの多い動画を見ていると酔いそうになる
体調と慣れ寝不足・空腹・満腹・疲れ、VRに慣れていない寝不足の朝は、いつもの通勤電車でも酔いやすい

まず機器で大きく関わるのは、映像のコマ数(フレームレート)と遅れです。頭を動かしてから映像が追いつくまでの遅れは「モーション・トゥ・フォトン遅延」と呼ばれ、ゲームエンジンを開発するUnityの用語集では20ミリ秒未満が理想とされています。さらに、ヘッドセットがずれていたり、レンズの間隔(IPD)が目の幅に合っていなかったりすると、映像がぼやけて目も疲れます。度の合わないメガネをかけたときと同じです。

次にコンテンツでは、自分の意思と関係なく視点が動く場面が、特に酔いのもとになります。作り方は4章で説明します。

また、もともとの酔いやすさにも個人差があります。冒頭の2022年の研究では、男性のほうが、また年齢が高い人ほど症状が軽い傾向が見られました。ただし、対象は18〜52歳なので、60代以上の方にもそのまま当てはまるとは限りません。少なくとも、年配の方だから酔いやすいと決めつける必要はなさそうです。

マーケターのひとこと

VRの研修を検討するときは、コンテンツの中身に目が向きがちですが、酔いやすさには機器の性能も大きく関わります。同じコンテンツでも、パソコンにつないで描画するヘッドセットと、単体で動くヘッドセットではコマ数が変わることがあります。見積もりの段階でどの機器で使う前提なのかをはっきりさせておくと、あとから「重くて酔う」となるのを防ぎやすくなります。

03体験する人ができる対策

Metaの安全に関する案内では、VR酔いは一時的なもので、コンテンツの選び方や休憩、使う時間を短くすることで軽くできるとされています。したがって、体験する方ができる対策は、ほとんどが使い方のちょっとした工夫です。

  • 座って始める:立ったままだと、ふらついたときに転んでしまうおそれがあります
  • 短い時間から始める:はじめは数分程度にして、慣れてきたら少しずつ延ばします
  • こまめに休む:区切りごとにヘッドセットを外して、ひと息入れます
  • ヘッドセットをきちんと着ける:ストラップを締め直して、レンズの間隔もご自分の目に合わせます
  • 体調の悪い日は控える:寝不足や二日酔いの日、食事の直前・直後は避けておくと安心です
  • 気持ち悪くなったらすぐ外す:我慢して続けると症状が重くなります。Metaも、症状が完全になくなるまでは使用を再開しないよう呼びかけています

ただ、研修では何人もの受講者が順番に体験します。そのため、対策を本人まかせにせず、運営する側でルールにしておくと安心です。

運営する側が決めておくこと理由
体験の前に、乗り物酔いしやすいかとその日の体調を聞く酔いやすい人に、最初から短めの時間をすすめられる
体験中は見守る人をつける様子がおかしいときに、すぐ止められる
VRでの体験を必須にしない酔いやすい人が無理をしなくて済む
体験後に座って休める場所を用意する外したあとも気分の悪さが残ることがある

マーケターのひとこと

体験会では「せっかくだから最後まで見てほしい」と思って、少し顔色の悪い方にも続けてもらいがちなんですよね。ですが、一度ひどく酔った方は、次にVRの研修があると聞いただけで参加をためらうことがあります。そのため、数分ごとに一度止めて、続けるかどうかを本人に聞くようにしておくと、無理をさせずに済みます。

04酔いにくいコンテンツの作り方

使い方の工夫だけでは、減らせる酔いに限りがあります。そこで研修用のVRを作るときや発注するときは、次の4つを確認してみてください。

確認すること酔いにくくするための作り方
視点体験する人のレバー操作や頭の動きに合わせて動かす。広い場所では、行き先を選んで瞬時に移る方法(テレポート)も用意する
加速・回転速さはなるべく一定にし、向きは少しずつ変える。ぶつかったときの揺れや歩くときの上下の揺れは控えめにする
動かない目印運転席や車内の枠、遠くの地平線や建物など、体と一緒に動くものや動かないものを見せる
コマ数研修で実際に使う機器で、コマ数が安定して出るかを試す。重いデータは軽くする

なかでもいちばん効くのは、視点の動かし方です。運転している人は酔いにくく、後部座席の人ほど酔いやすいとよく言われますよね。VRも同じで、視点が自分の操作どおりに動いていれば、目と耳の食い違いは小さくなります。

また、加速や回転は、急ブレーキの多いバスを思い浮かべると分かりやすいと思います。ゲームでは迫力を出すために激しい動きを入れることもありますが、研修用のVRに求められるのは、安全運転の送迎バスのような落ち着いた動きなんですよね。

動かない目印も、船酔いしそうなときに「遠くの景色を見るといい」と言われるのと同じ考え方です。たとえば重機の運転席や車の中のように、体と一緒に動く枠が見えていると酔いにくくなると言われています。

そして、見落とされやすいのがコマ数です。Metaは Quest 向けのアプリに、1秒間に60コマ以上の描画を保つことを求めています(画面の書き換えは72Hz以上)。研修で実際に使う機器で、コマ数が安定して出るかを事前に試しておきましょう。細かい3Dモデルや広い現場のデータを使うときは、データを軽くしたり、見えない部分を描画しないようにしたりする調整もあわせて行います。

マーケターのひとこと

作っている側は、制作中に何十回もVRで動きを確かめるので、自分ではほとんど酔わなくなっていることがよくあります。そのため、作った人が「問題ない」と思った場面でも、初めてVRを使う人はすぐに気分が悪くなることがあります。チェックのときはVRをほとんど使ったことのない人にも試してもらうと、酔いやすい場面が見つかりやすくなります。

05酔いやすい人にはPC画面での訓練がおすすめ

ここまでの対策で、酔いはかなり減らせます。しかし、VR酔いをゼロにすることはできません。そこで用意しておきたいのが、PC画面(モニター)で同じ内容を体験する方法です。

映画館の最前列だと酔いそうになる方でも、リビングのテレビなら平気ということがありますよね。というのも、モニターなら画面のまわりに部屋や机など動かない景色が見えているからです。そのため、視界がまるごと映像になるヘッドセットに比べて、目と耳の食い違いが小さく済みます。

ただし、大きな画面を近くで長く見続ければ、モニターでも画面酔いは起きることがあります。休憩はVRのときと同じように入れてください。

また、VRとPC画面は得意なことが少し違います。

項目VRヘッドセットPC画面(モニター)
没入感高い。現場にいるような感覚VRよりは低い
距離感・高さの感覚つかみやすい画面の映像から読み取る
酔いやすさ酔う人もいるVRより酔いにくい
まわりの人との共有本人の視界を別の画面に映す必要がある指導者やほかの受講者も同じ画面を一緒に見られる
準備装着・調整・清掃が必要PCと操作機器を置けばすぐ始められる

たとえば、操作の基本や手順を覚える段階はPC画面、距離感をつかむ練習や危険な場面の体験はVR、という分け方ができます。もちろん、酔いやすい方はすべてPC画面で進めていただいてもかまいません。

マーケターのひとこと

PC画面とVRの両方を用意するときは、操作の仕方が同じかどうかも確かめておきたいところです。画面ごとにボタンや手順が違うと、途中でPC画面に切り替えた人は操作を覚え直すことになります。発注や機材選びの段階で、同じシナリオを、同じ操作機器で、PC画面とVRのどちらでも動かせるかを確認しておくと、切り替えがスムーズです。

06PC画面でも使える建機シミュレーター「メタトレ」

WANが開発している「メタトレ」は、建設・土木の新人教育や安全教育に使える建機シミュレーターです。ショベルの走行や旋回、掘削、整地、法面成形などの基本操作を、仮想空間の中で何度でも練習できます。

さらに、メタトレはPCとVRヘッドセットのどちらでも導入できます。PC画面で使うときは、運転席からの視点をモニターに映してレバーで操作します。

展示会のメタトレのブースで、モニターに映したショベルの運転席の視点を見ながら、レバーで操作している体験者
図2モニターとレバーで操作しているメタトレ(CSPI-EXPO 2026 のWANのブース)

メタトレでできることは、たとえば次のとおりです。

  • ショベルの基本操作をくり返し練習する
  • 埋設管や歩行者、車両、狭い道路など、現場で注意が必要な場面を組み込んだシナリオで訓練する
  • 操作時間や動きの安定性、判断のタイミングなどを記録して、あとから振り返る

体験会では、「視界やカメラの動きが安定していて、酔わずに集中できた」というお声もいただきました。VR酔いが心配な方はPC画面で、距離感をつかみたいときはVRで、と人や目的に合わせて使い分けていただけます。

07まとめ:VR酔い対策は「人・コンテンツ・機器」の3つで考える

ある研究では、10分間の体験で6割以上の人が酔いを感じていました。酔うのは珍しいことではありませんが、酔いの多くは、研修を用意する側の工夫で減らせます。用意する側がやることを、3つに分けてまとめます。

人:短い時間から始めて、無理をさせない

座って、数分から始めて、こまめに休む。運営する側は、体験の前に体調を聞き、つらそうな人はすぐに止められるようにしておきます。受講者が酔ってしまったときは「あの人は弱いから」で終わらせず、体験の時間や休憩の入れ方を見直しましょう。

コンテンツ:視点は操作どおりに動かし、慣れていない人で確かめる

視点は体験する人の操作に合わせ、加速や回転はゆるやかにして、動かない目印を見せます。発注の前には、VRに慣れていない社員にも試してもらうと、慣れた人には分からない「酔う場面」が見つかります。

機器:実際に使う機器でコマ数を確かめ、PC画面も用意する

研修で使う機器でコマ数が安定して出るかを確かめます。あわせて、PC画面で受ける人の分の機材と席も用意しておけば、途中で酔ってしまった人もその場で切り替えて、同じ内容の訓練を最後まで受けられます。

研修にVRを入れるときは、体験する時間、休憩の入れ方、PC画面の用意の3つを、先に決めておくことをおすすめします。

出典・参考

Garrido, L. E. ほか「Focusing on cybersickness: pervasiveness, latent trajectories, susceptibility, and effects on the virtual reality experience」Virtual Reality 26巻(2022年) https://doi.org/10.1007/s10055-022-00636-4
Meta「Meta Quest 3S 健康および安全に関する警告」 https://www.meta.com/jp/legal/quest/health-and-safety-warnings/quest-3s/ (2026年10月19日確認)
Meta「VRC.Quest.Performance.1」 https://developers.meta.com/horizon/resources/vrc-quest-performance-1/ (2025年10月22日更新、2026年10月19日確認)
Unity「Motion-to-photon latency」(用語集) https://unity.com/glossary/motion-to-photon-latency (2026年10月19日確認)

メタトレのイメージ(仮想空間の建設現場で、ショベルを操作している)

この記事で紹介した製品

建機シミュレーター メタトレ
仮想空間で、ショベルの操作訓練と、危険な場面を組み込んだ安全教育を行えるシミュレーターです。PCとVRヘッドセットで導入でき、操作の記録から習熟度を振り返れます。

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