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わずか3秒で人の動きを3Dデータ化できる!?「ボリュメトリックビデオシステム」とは

ボリュメトリックビデオの仕組みと活用例、これからの技術を解説

撮影から、わずか3秒。東京ドームの巨人戦では、100台を超えるカメラで撮影した選手の動きが、それだけの時間で3Dデータに変換され、選手の周りを回り込むリプレー映像として中継で放送されています。2019年のラグビーワールドカップの時点では、同じ種類の映像を作成するのに、試合後約1時間かかっていました(日経クロステック)。

このように、人の動きを見た目ごと3Dで記録する技術が「ボリュメトリックビデオ」です。数年で処理の時間を1000分の1以下にまで縮めた裏側には、何があったのでしょうか。

円形に組んだ撮影用の骨組みに多数のカメラが並ぶ暗いスタジオで、跳び上がったダンサーの手足が光る点の粒にほどけていく写真風の画像に、「VOLUMETRIC VIDEO」「わずか3秒で人の動きを3Dデータ化できる!?」「「ボリュメトリックビデオシステム」とは」の文字を重ねた画像

この記事のポイント

撮影したあとで、視点を自由に選べる
人の動きを見た目ごと3Dデータにするため、アングルやズームをあとから変更できます。

「3秒」は、100台を超えるカメラと専用の装置が支えている
東京ドームでは、カメラどうしを細かく同期させ、画像処理の一部を専用のハードウエアにすることで、この速さを実現しました。

より手軽に作る研究も進んでいる
設備の費用やデータの重さが課題とされる一方で、時間の変化を含む3D空間を軽く描画する4D Gaussian Splatting などの研究が進んでいます。

01ボリュメトリックビデオとは?360度動画やモーションキャプチャとの違い

ボリュメトリックビデオとは、被写体を多数のカメラで囲んで同時に撮影し、人や物の形・色・動きを、時間ごとの3Dデータとして記録する技術のことです。平面の映像に加えて、体積(volume)の情報まで記録することから、この名前が付きました。キヤノンは「時間と空間を丸ごと撮影して3Dデータ化する技術」と説明しています。日本の放送業界では、できあがる映像を「自由視点映像」と呼ぶことも多い技術です。

暗いスタジオで、円形に並んだ多数のカメラとライトに囲まれたステージの上を、男性が歩いている写真
図1ボリュメトリックキャプチャ(撮影)のステージ。周りを囲む多数のカメラで、人の動きを同時に撮影する。写真:Holger2130(CC BY-SA 4.0)

記録したデータが3Dなので、撮影後に仮想のカメラを好きな位置に置けます。被写体の周りを回り込む映像も、時間を止めた映像も、撮影のあとで作成できるわけです。人の動きを記録するほかの方法と比べると、違いは次の表のようになります。

記録の方法記録できる情報記録できない情報
360度動画カメラの位置から見た全方位の映像カメラの位置から離れた視点、被写体の裏側
モーションキャプチャ体の関節の動き(数値)顔や衣装などの見た目。見た目は別にCGで制作する
ボリュメトリックビデオ動きと見た目を3Dデータで。視点はあとから選べるカメラに写らなかった部分、撮影した範囲の外

360度動画は、カメラを置いた定点から、周囲の全方向を撮影した映像です。そのため、視聴者は向きを変えて見回すことはできても、カメラの位置から動くことはできません。VRの分野では、このように頭の向きだけを変えられる状態を「3DoF」、位置まで動かせる状態を「6DoF」と呼んで区別しています。一方、モーションキャプチャは体の動きを数値として記録する方法で、主にCGのキャラクターを動かすために使われてきました。

これに対してボリュメトリックビデオは、本人の見た目のまま、6DoFで周囲を回り込んで見られるのが強みです。ただし、カメラに写らなかった部分を3Dデータにするのは難しいのが現状です。そのため、どの事例でも、被写体を多数のカメラで隙間なく囲み、死角をなくしています。

02わずか3秒で3Dデータになる仕組み

キヤノンの説明では、ボリュメトリックビデオは次の3段階で作成されます。

  1. 被写体を、さまざまな角度のカメラで同時に撮影する
  2. 被写体以外の部分を削り、被写体だけを3Dデータにする
  3. 背景の3Dデータと合成し、仮想のカメラで映像にする
多数のカメラで囲んで撮る、被写体を小さな立方体の集まりで3Dにする、背景と合成して仮想のカメラで回り込む、の3段を矢印でつないだ図
図2ボリュメトリックビデオができるまで(キヤノンと日経クロステックの説明をもとにWANが作成したイメージ)

東京ドームでは、内野の上の空間に、3mm角の小さな立方体(ボクセル)を敷き詰めたブロックを仮想的に置いています。そこから、各カメラの映像で選手が写っていない部分を削っていくと、最後に選手の形だけが残ります(日経クロステック)。輪郭を手がかりに、何もない空間を削って形を取り出すこの考え方は、コンピュータビジョンの分野で「視体積交差法(Visual Hull)」と呼ばれる手法です。残った形には、映像から色を貼り付け、あらかじめ3Dデータで用意した球場の背景と合成します。

この方法では、カメラが1台でも違う瞬間を撮影していると、削る位置がずれて形が崩れてしまいます。そこで東京ドームでは、カメラどうしの同期を「マイクロ秒以下」の精度でそろえています(CIO)。カメラは、シネマカメラ「EOS C300 Mark II」を改造した4Kカメラです。

それでも、2019年に約1時間かかっていた処理を、3秒まで縮めるのは簡単ではありません。キヤノンは「サーバーとは別に画像処理の一部を自社技術でハードウエア化した」と説明しています。つまり、計算の手順を工夫しただけでなく、処理の一部を専用の回路に置き換えたことが、3秒という速さにつながったわけです。

マーケターのひとこと

「3秒」と聞くと、ソフトウエアの進化だけで速くなったように感じるかもしれません。しかし、東京ドームの例では、カメラの同期や画像処理の一部をハードウエアで作り込むことで、この速さを手に入れています。ソフトウエアと設備の両方を作り込んだからこそ、中継の現場で使える速さになったという点は、ほかの最先端の技術を見るときにも参考になる視点だと思います。

03ボリュメトリックビデオが使われている3つの分野

スポーツ中継:東京ドームのリプレー映像

始まりは、2022年に日本テレビから「野球でも使えないか」と打診があったことでした。東京ドームの巨人戦で2回の試験撮影を行ったところ反響を呼び、2023年シーズンから常設のシステムになっています(日経クロステック)。カメラを取り付けたのは、観客席の上をぐるりと1周するキャットウォークなど、ふだん照明などの機材を設置している場所です。グラウンドを上から囲むように機材を置ける屋根付きの球場は、多数のカメラで囲む撮影にもともと向いていたといえます。ただし、バックスクリーンの上など一部にはカメラを置けず、配置は変則的になっているそうです。

キヤノン・日本テレビ・読売新聞東京本社のこの取り組みでは、ファインプレーの瞬間に時間を止めて上下左右から回り込む映像や、選手の目線から見た映像が放送されました。第50回放送文化基金賞(放送技術部門)も受賞しています。さらに2024年シーズンには、スマートフォンやVRゴーグルで、捕手や一塁手などの視点から中継を視聴できるようになりました。

観客で埋まった東京ドームの内野と外野を、スタンドの上段から見渡した写真
図3東京ドームの巨人戦(2026年7月)。写真:Gatorfan252525(CC BY-SA 4.0)

2025年3月に東京ドームで開催された大リーグの開幕シリーズでも、この映像がリプレーに使われました。米国のFOX Sportsは、大谷翔平選手のホームランの映像をSNSで紹介しています(CIO)。日経クロステックが「大リーグの先行く巨人戦」と書いたとおり、日本の球場で先に実用化された技術が、大リーグの公式戦でも使われたわけです。

音楽・映像制作:スタジオで撮るミュージックビデオ

ニコンの子会社であるニコンクリエイツは、2022年10月から、東京・平和島の撮影施設で「POLYMOTION STAGE」を使った制作サービスを提供しています。100台以上のカメラで被写体を囲むスタジオで、1回の撮影で360度の3Dデータを取得できるため、カットを変えて撮り直す必要がありません(デジカメ Watch)。撮影後にアングルやズームを変えることも、1人ずつ撮影したメンバーを合成してグループの映像にすることもできます。

ミュージックビデオの撮影では、同じ曲をアングルごとに何度も演奏し直すことが少なくありません。その「テイクの数」を、カメラの台数で置き換えたのがこのスタジオだといえます。

円形のスタジオの中央で演奏する人を、周りの柱に取り付けた多数のカメラが囲んでいる絵
図4スタジオでの撮影のイメージ(ニコンクリエイツの説明をもとにWANが作成)

伝統芸能:能の舞台を3Dで残す

2021年7月、キヤノンと日本IBMは、芸術・芸能の分野での協業を発表しました。その第一弾が、宝生流の家元・宝生和英氏が演出した能「葵上」のボリュメトリック映像です。能楽師の演技を川崎市にあるキヤノンのスタジオで撮影し、実在する能楽堂を計測して作成した3DCGの中に合成しています。キヤノンのサイトには、ほかに仕舞「熊坂」や、デジタル音楽と組み合わせた「序の舞」も掲載されています。

夜、かがり火のたかれた屋外の能舞台で、面と装束を着けたシテが舞い、後ろに囃子方と地謡が並んでいる写真
図5新潟県佐渡市の能舞台での上演(2017年10月)。写真:Yoshiyuki Ito(CC BY-SA 3.0)

能楽師の所作を、客席からは見えない真上や背後からも見られる形で残せば、記録はそのまま、型を学ぶための資料にもなります。CIOの記事でも、寿司職人や介護の技術のような「匠の技」を伝えるための撮影が増えていると紹介されていました。

04ボリュメトリックビデオはこれからどうなる?課題と新しい手法

今のボリュメトリックビデオは、東京ドームのように会場にカメラを常設するか、キヤノンやニコンクリエイツのようにカメラを常設したスタジオで撮影するか、のどちらかが中心です。どちらにしても、専用の設備が欠かせません。

課題:設備の費用とデータの重さ

スタジアムへの設置に時間と費用がかかることは、キヤノン自身も課題に挙げています。また、見る人が視点を自由に操作する段階になると、データの容量も問題になるそうです(CIO)。スタジオで撮影する場合も、撮影できる範囲はスタジオの広さまで。キヤノンの川崎のスタジオなら、8m×8mです。

被写体による得意・不得意もあります。髪の毛のように細かく複雑に動くものは、研究の分野でも3Dで捉えるのが難しい対象とされてきました。東京ドームのように3mm角のボクセルで形を作る場合、それより細い髪の毛1本1本までは表せません。

新しい手法:4D Gaussian Splatting

こうした課題に対して、研究の分野では別の作り方も登場しています。その1つが、写真のような3D空間を作成する3DGS(3D Gaussian Splatting)に、時間の変化を加えた4D Gaussian Splatting(4DGS)です。ボクセルの代わりに、色と形を持つ小さな粒(ガウス分布)を空間に並べ、その粒の位置や形を時間とともに変化させて、動きのある場面を表します。

2024年に発表された論文では、動きのある場面を、GPU(RTX 4090)1枚で毎秒最大583コマ描画できたと報告されています。一般的な動画の毎秒30コマの約20倍です。ただし、これは研究の段階の数字で、実際の制作に使うにはまだ検証が必要です。4DGSの仕組みは、WANの記事「これが 4D Gaussian Splatting だ!」でも解説しています。

「これが4D Gaussian Splatting」の文字と、スタートを切る陸上選手の動きが重なって見える画像
図6WANの記事「これが 4D Gaussian Splatting だ!」の表紙(記事を読む)

マーケターのひとこと

3DGSは、止まった空間を写真のように残す技術として、ここ数年で一気に広がりました。同じように4DGSが実用の段階に入れば、動きのある場面も、今より手軽に3Dで残せるようになるかもしれません。大規模な設備で作る今のボリュメトリックビデオと、軽く描画できる新しい手法がどう近づいていくのか。これからも注目していきたいところです。

05まとめ:3秒の速さを支える技術とこれからの広がり

ボリュメトリックビデオは、人の動きを見た目ごと3Dデータとして記録し、あとから好きな視点で見せられる技術です。東京ドームの「3秒」は、視体積交差法という昔からある考え方を、マイクロ秒単位の同期と専用のハードウエアで中継の速さまで引き上げた成果でした。

活用はスポーツ中継から、ミュージックビデオの制作や能の記録、「匠の技」の継承にまで広がっています。その一方で、設備の費用とデータの重さという課題は残ったままです。4DGSのような新しい手法が、この壁をどこまで下げられるかが、次の数年の見どころになるでしょう。

WANでは、3DGSや4DGSをはじめ、空間や人の動きを3Dで記録する技術を、これからも追いかけて紹介していきます。

出典・参考

内田泰「大リーグの先行く巨人戦、キヤノンがカメラ98台の自由視点映像を3秒で生成」日経クロステック https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/00001/07936/ (2023年4月17日公開、2026年10月22日確認)
VIDEO SALON.web「東京ドームのボリュメトリックビデオシステムの裏側 98台の4K高解像度カメラが生み出すリプレイ映像」 https://videosalon.jp/report/dome_replay/ (2023年5月12日公開、2026年10月22日確認)
末岡洋子「MLBも注目するボリュメトリックビデオ、新たな映像体験を開拓するキヤノン」CIO https://www.cio.com/article/4045165/ (2025年9月2日公開、2026年10月22日確認)
キヤノン「ボリュメトリックビデオとは」 https://global.canon/ja/vvs/about/ (2026年10月22日確認)
キヤノン ニュースリリース「プロ野球中継でボリュメトリックビデオ技術を用いた革新的な映像体験を実現」 https://global.canon/ja/news/2024/20240606.html (2024年6月6日公開、2026年10月22日確認)
キヤノン ニュースリリース(日本IBMとの芸術・芸能分野での協業) https://global.canon/ja/news/2021/20210702.html (2021年7月2日公開、2026年10月22日確認)
キヤノン「能楽×ボリュメトリックビデオ」 https://global.canon/ja/vvs/noh/ (2026年10月22日確認)
デジカメ Watch「ニコンクリエイツ、ボリュメトリックビデオ撮影のサービス開始。100台以上のカメラで撮る“次世代自由視点3D映像”」 https://dc.watch.impress.co.jp/docs/news/1447450.html (2022年10月18日公開、2026年10月22日確認)
Duan, Y. ほか「4D-Rotor Gaussian Splatting: Towards Efficient Novel View Synthesis for Dynamic Scenes」 https://arxiv.org/abs/2402.03307 (2024年)
Wang, Z. ほか「HVH: Learning a Hybrid Neural Volumetric Representation for Dynamic Hair Performance Capture」CVPR 2022 https://arxiv.org/abs/2112.06904
写真:Wikimedia Commons

WANが制作した3DCGのキャラクターが、星の光の中で踊っている映像の一場面

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