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観光客を日帰りで帰さない!ナイトタイムエコノミーの成功事例

夜の催しで宿泊と消費は本当に増える? 自治体の報告書から、夜にお金が落ちる自治体と落ちない自治体の差を調べてみた

夕方5時を過ぎると、駐車場の観光バスが次々に出発し、土産物店はシャッターを下ろし始める。日が暮れると通りから人が消え、観光客は来ているのに、地域にお金が残らない状態になります。

この差は、旅行単価にはっきり表れます。観光庁の2025年の調査では、国内旅行の1人1回あたりの単価は宿泊旅行が72,412円、日帰り旅行が20,000円で、約3.6倍の差があります。では、夜にライトアップや映像の催しを開けば、観光客は本当に泊まっていくのでしょうか。そこで、夜のイベントの映像演出を手がけるWANが、宿泊や消費が実際に増えたのかを、自治体の報告書などの公開資料をもとに調べてみました。

盆踊りの提灯が並ぶ夜の通りで、浴衣を着て笑う女性の写真に、「ナイトタイムエコノミー」「日帰りで帰さない!」「成功事例」の文字を重ねた画像

この記事のポイント

夜の催しは、見せるだけでは地域にお金が落ちていなかった
東京都の推計では、来場者の消費による効果は開催経費の約0.05倍でした。来場者は日帰りで、滞在は1時間ほどと見込まれています。

宿泊が増えた事例には「目的・つなぎ・測り方」があった
夜に来る目的があり、催しが宿泊と消費につながっていました。宮津市と輪島市は、その効果を宿泊の数字で示しています。

宿泊の数字を公表している自治体もある
京都府宮津市のナイトウォークでは、参加者の半数以上が市内に宿泊しました。

01ナイトタイムエコノミーとは?夜の時間が自治体の観光収入を左右する理由

ナイトタイムエコノミーとは、夜間(観光庁のナレッジ集では18時から翌朝6時まで)に行われる飲食・観覧・宿泊などの経済活動のことです。海外では早くから都市の産業として扱われてきました。ロンドンの夜間経済は、2014年時点で付加価値が177億〜263億ポンド、直接の雇用が72万3,000人と推計されています(London First・EY)。日本でも、観光庁が2019年に自治体向けのナレッジ集をまとめています。

自治体にとって夜の時間が重要なのは、宿泊旅行の単価が、日帰り旅行の約3.6倍になるからです。日帰り客が地域で支払うのは、昼食代や入場料が中心になります。一方、泊まる旅行者は、夕食・飲み物・宿泊費・翌朝の朝食まで、地域でお金を使います。

ところが、奈良市の資料では、市を訪れる観光客の約9割が日帰りとされています。全国有数の観光地でも、夜を過ごす理由がなければ、単価の低い日帰り客が観光収入の中心になるわけです。

宿泊旅行は72,412円、日帰り旅行は20,000円で、宿泊は日帰りの約3.6倍であることを示す横棒の図
図1日帰り旅行と宿泊旅行の、1人1回あたりの旅行単価(観光庁「旅行・観光消費動向調査 2025年 年間値(確報)」をもとにWAN作成)

02夜にお金が落ちない自治体の3つの共通点

観光庁のナレッジ集が挙げる課題と、各地の報告書を照らし合わせると、夜の時間を活かせていない自治体には次の3つの共通点がありました。

共通点起きていること
夜に行く場所がない宮津市の観光アンケートでは「寂しい」「店が閉まるのが早い」という声が多かった
見せるだけで帰してしまう香川県のプロジェクションマッピングでは、来場者の84%が県内の日帰り客だった
帰りの交通手段と担い手がない観光庁のナレッジ集では、深夜に公共交通が動かないことや、夜に働く人の確保が難しいことが課題とされている

なかでも意外だったのが、2つ目の「見せるだけで帰してしまう」です。東京都は、プロジェクションマッピングの国際的な催しについて経済波及効果を推計しています。来場者25,353人の消費による生産誘発額(消費をきっかけに生まれる生産額)は0.22億円で、開催経費4.83億円の約0.05倍にとどまりました。ただし、都はこの推計で、来場者を日帰り、滞在を1時間ほどとしています。経費1億円あたりに直すと、来場者の消費で生まれる効果は約450万円にとどまる計算です。そのため、来場者が日帰りで帰る限り、催しの経費に見合う効果を生むのは難しいといえます。

夜の東京都庁舎の壁面に、大きな模様と海の生き物の映像が投影されている
図2東京都庁舎へのプロジェクションマッピング(2024年)。写真:Insightwm(CC BY-SA 4.0)

マーケターのひとこと

東京都の推計で目を引いたのは、来場者の滞在を「1時間ほど」と置いている点です。つまり、上映を見終えた人は、地域に残らずにそのまま駅や駐車場へ向かうと見込まれているわけです。演出を作る側はつい映像の中身に目が行きますが、上映が終わったあとの時間を地域のどこで過ごしてもらうかは、演出だけでは決まりません。お金が落ちるかどうかは、上映の外側で決まっているのだと感じました。

03夜に宿泊が増えたナイトタイムエコノミーの成功事例3選

一方で、夜の催しを宿泊の増加につなげた自治体もあります。宮津市と輪島市は、その効果を宿泊の割合や宿泊者数の前年比として報告書に残しています。

宮津市:天橋立ナイトウォークの参加者の52.9%が市内に宿泊

京都府宮津市は、観光客は多いものの、宿泊率が18〜20%にとどまることを課題としていました。そこで2022年10〜11月に開いたのが、18時から22時にライトアップ・プロジェクションマッピング・音の演出を組み合わせた「宮津天橋立ナイトウォーク」です。参加者1,758人のうち91.5%が市外からの来訪者で、参加者の52.9%が宮津市内に宿泊しました。市のふだんの宿泊率(18〜20%)と比べると、2.6倍を超える割合です。

市の報告書は、今後は催しを単体で有料にするより、宿泊や地域のクーポンとセットにするほうがよいと提言しています。

天橋立と宮津湾を高台から見下ろした昼間の景色
図3京都府宮津市の天橋立。写真:808PhatBeats(CC0)

輪島市:白米千枚田のイルミネーションで冬の宿泊者が前年を上回る

石川県輪島市の白米千枚田では、棚田のあぜに約12,000個のソーラーLEDを並べる「あぜのきらめき」を、地域のボランティアとともに開いています。2010年代初めの開催期間中、市内の宿泊者数は前年比で11月113%、12月112%に増えました(総務省の事例資料)。観光客の少ない冬の夜に、棚田まで足を運ぶ理由をつくった例です。ただし、この数字は2024年の能登半島地震より前のものです。

夕暮れの白米千枚田のあぜに沿って、ピンク色の小さな明かりが無数に並んでいる
図4白米千枚田のイルミネーション(2012年12月)。写真:suri(CC BY-SA 2.0)

高千穂町:夜通し舞う夜神楽を毎晩の公演にして宿泊につなげる

宮崎県高千穂町の夜神楽は、本来は冬に集落で夜通し舞われる神事です。町では、その一部を短くまとめた公演を毎晩、低い料金で観光客に公開し、宿泊につなげています。毎晩見られるため、旅行者は開催日を気にせず、夜神楽を目当てにした1泊の旅程を組めるのです。

面をつけ、白い装束に赤い帯を締めた舞手が、両腕を広げて舞っている
図5高千穂の夜神楽(2016年)。写真:David Stanley(CC BY 2.0)

04宿泊につながった夜の催しに共通する4つのこと

3つの事例と、人が集まりすぎた白川郷の例を並べると、宿泊につながった催しには次の4つの共通点が見えてきます。

共通点事例で起きていたこと
宿泊や地域での消費とセットにしていた宮津市の報告書は、催しだけを有料にするより、宿泊や地域のクーポンと組み合わせるよう提言している
毎晩、決まった時間に見られた高千穂町の夜神楽は、毎晩の公演として観光客に公開されている
観光客の少ない時期の夜に開いていた輪島市の白米千枚田は、冬の11〜12月に開き、宿泊者数が前年を上回った
住民の暮らしと折り合いをつけていた白川郷では2時間のライトアップに7,000〜8,000人が訪れ、2019年から抽選の予約制にした

どの事例も、催しの規模や演出の新しさで宿泊を増やしたわけではありません。泊まる理由と、泊まったあとの消費の受け皿を、催しと一緒に用意していた点が共通しています。また、白川郷のように、催しが成功するほど、住民が休む夜の時間とのぶつかりが大きくなります。白川郷が2019年に抽選の予約制へ切り替えたのは、このぶつかりに対応した例といえます。

雪に覆われた合掌造りの集落の窓に、明かりがともっている夜景
図6冬の夜の白川郷(2017年)。写真:Yoshiyuki Ito(CC BY-SA 3.0)

マーケターのひとこと

高千穂の夜神楽は、新しく作った催しではありません。もともと集落で夜通し舞われてきた神事を、毎晩見られる形に組み直したものです。映像演出を手がける立場から見ても、その土地にすでにある夜の行事や景色は、新しく足す演出よりも強い「来る理由」になるのかもしれません。演出は、それを見つけてもらうための入口として働くのが理想だと考えています。

05ナイトタイムエコノミーの効果は何で測られているのか

夜の催しの報告書を読み比べると、効果の測り方は自治体によってさまざまでした。来場者数だけを公表している例も多く、それだけでは地域にお金が落ちたかどうかは分かりません。今回の資料で使われていた指標は、次の4つです。

指標使っていた資料と調べ方
来場者のうち、市内に宿泊した割合宮津市の報告書。来場者アンケートで宿泊地を聞いている
開催期間中の宿泊者数の前年比総務省の白米千枚田の事例資料。市内の宿泊者数を前年の同じ月と比べている
来場者の居住地と、日帰りか宿泊か香川県の経済波及効果の資料。県内の日帰り客が84%だった
来場者の消費による経済波及効果東京都・香川県の資料。来場者の消費額から生産誘発額を推計している

宿泊への効果を数字で示せていたのは、当日のアンケートで宿泊地を聞いていた宮津市と、宿泊者数を前年と比べていた輪島市でした。宿泊を目的にした催しであれば、宿泊の数字で効果を測るのが筋だといえます。

費用については、国や自治体の補助が使われた例があります。観光庁は2020年度に「夜間・早朝の活用による新たな時間市場の創出事業」を行い、夜間・早朝の観光コンテンツづくりを支援しました。宮津市のナイトウォークも、観光庁の「地域一体となった観光地の再生・観光サービスの高付加価値化事業」を活用しています。また、千葉市のように、市が独自に夜間の事業を支援している例もあります。ただし、補助の名前と条件は年度ごとに変わり、最新の公募は観光庁と各都道府県のページで公開されています。

マーケターのひとこと

報告書を読み比べて気づいたのは、宿泊への効果を示せていた自治体ほど、催しの当日に数字を取っていたことです。来場者の人数はあとからでも数えられます。しかし、その人が今夜どこに泊まるのかは、当日に本人に聞かなければ分かりません。測り方まで含めて催しを組み立てていたことが、宮津市の報告書の説得力につながっているように見えました。

06夜の映像・照明演出を企画から頼める「WAN」

ここまでの「目的・つなぎ・測り方」を、演出の企画の段階から組み込んで依頼する方法もあります。WANは、プロジェクションマッピングや照明を使った空間演出を、企画・映像制作・設営・運用まで一貫して手がけています。

博物館の夜間イベントでは、通常の開館時間とは違う夜の館内で、約5分の映像と、海を思わせるライトアップを組み合わせた演出を制作しました(事例の記事)。寺院の本堂の形を計測して、お経の声に合わせて映像が変わる投影を行った例もあります(事例の記事)。

博物館の吹き抜けの壁に、夜空の星と文字の映像が投影されている
図7WANが映像演出を担当した、博物館の夜間イベント

上映時間や回数を地域の飲食店や宿の営業時間に合わせて組むなど、来場者が夜まで地域に残る流れを、演出の設計に組み込むことを大切にしています。

07まとめ:宿泊が増えたナイトタイムエコノミーには「目的・つなぎ・測り方」があった

宿泊旅行の単価は、日帰り旅行の約3.6倍です。しかし、夜の催しを開いても、来場者が日帰りで帰れば、その差は地域に入りません。宿泊が増えた事例には、次の3つが見られました。

目的:毎晩見られる夜の催しが泊まる理由になっていた

高千穂町の夜神楽は毎晩公演を開いており、宮津市のナイトウォークも18時から22時の夜の時間に開かれていました。どちらの事例でも、その土地でしか見られない夜の催しが、日帰りで帰らずに泊まる理由になっています。

つなぎ:催しが宿泊と地域での消費に結びついていた

宮津市の報告書は、催しを単体で有料にするより、宿泊や地域のクーポンとセットにするよう提言しています。白川郷のように、住民の暮らしと折り合いをつける仕組みも、続けるための条件になっていました。

測り方:来場者数より宿泊の数字で効果を示していた

宮津市は当日のアンケートで宿泊地を聞き、輪島市は宿泊者数を前年と比べていました。宿泊の数字があったからこそ、夜の催しの効果を説明できていたわけです。

今回調べた範囲では、催しの規模の大きさよりも、上映や公演を見終えた来場者が地域の宿や飲食店で過ごしていたかどうかが、夜にお金が落ちる自治体と落ちない自治体を分けていました。

出典・参考

観光庁「旅行・観光消費動向調査 2025年 年間値(確報)」 https://www.mlit.go.jp/kankocho/content/001998342.pdf (2026年4月30日公開、2026年10月21日確認)
観光庁「ナイトタイムエコノミー推進に向けたナレッジ集」(平成31年3月) https://web.archive.org/web/2020/https://www.mlit.go.jp/common/001279567.pdf (2026年10月21日確認)
奈良市「奈良市観光の現状と課題」 https://www.city.nara.lg.jp/uploaded/attachment/134529.pdf (2026年10月21日確認)
London First・EY「London's 24-hour economy」(2016年) https://www.businessldn.co.uk/sites/default/files/documents/2018-05/Londons-24-hour-economy.pdf (2026年10月21日確認)
東京都産業労働局「プロジェクションマッピング国際アワードTOKYO 経済波及効果」 https://www.sangyo-rodo.metro.tokyo.lg.jp/documents/d/sangyo-rodo/hakyukokar6 (2026年10月21日確認)
香川県「あなぶきアリーナ香川プロジェクションマッピング2026 経済波及効果」 https://www.pref.kagawa.lg.jp/documents/60511/houdouteikyou.pdf (2026年3月16日公開、2026年10月21日確認)
宮津市「ナイトコンテンツによる滞在時間延長実証試験業務 業務完了報告書」 https://www.city.miyazu.kyoto.jp/uploaded/life/17465_31577_misc.pdf (2023年1月10日公開、2026年10月21日確認)
総務省「自然と人の共生で煌めく白米千枚田活性化事業」 https://www.soumu.go.jp/main_content/000184216.pdf (2026年10月21日確認)
日本総合研究所 高坂晶子「ナイトタイムエコノミーの振興について」(東京都ナイトタイム観光部会資料) https://www.sangyo-rodo.metro.tokyo.lg.jp/plan/tourism/620b7ee587c11a6ee229bdcf5b2ce85d.pdf (2024年5月29日、2026年10月21日確認)
トラベルボイス「白川郷のライトアップ、完全予約制へ」 https://www.travelvoice.jp/20190123-125050 (2019年1月23日公開、2026年10月21日確認)
観光庁「夜間・早朝の活用による新たな時間市場の創出事業」 https://www.mlit.go.jp/kankocho/topics05_000347.html (2026年10月21日確認)
ジチタイワークス「ナイトタイムエコノミーを推進して夜の時間帯も楽しめるまちをつくろう!」 https://jichitai.works/articles/2961 (2025年3月7日公開、2026年10月21日確認)
写真:Wikimedia Commons

博物館の夜間イベントでの映像演出

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