実機なしで遠隔操縦を体験できる? 展示会向けショベルシミュレーターの開発事例
大手建設機械メーカー様の依頼で開発した、遠隔操縦を体験できるシミュレーターの課題・工夫・成果
展示会のブースに重機を置くには、運び込みと据え付けに手間がかかります。それに、置けたとしても来場者がその場で操作するのは難しいものです。まして遠隔操縦のように、まだ現場で見る機会の少ない操作方法は、説明の資料や映像だけでは手ごたえまで伝わりません。
国土交通省が2024年4月に策定した「i-Construction 2.0」は、2040年度までに建設現場の省人化を少なくとも3割にすることをめざし、「施工のオートメーション化」を3本の柱の一つにしています。新しい操作方法の機械を知ってもらい、実際に操作してもらう場は、これからさらに必要になります。
ここでは、大手建設機械メーカー様の依頼でWANが開発した、ショベルの遠隔操縦を体験できるシミュレーターの事例を紹介します。

この記事のポイント
実機を持ち込めない会場で操作を体験してもらう
ショベルの運転席からの視点と操作を仮想空間に再現し、展示会の来場者がその場で遠隔操縦を体験できるようにしました。
数分で終わる課題にして、初めての人でも操作できるようにする
やることを1つの課題にしぼり、制限時間と目印を画面に出して、説明がなくても進められる作りにしました。
体験用の環境は、訓練やAIの学習にも広げられる
機械と現場を仮想空間に再現する技術は、研修用のシミュレーターやAIの学習環境の土台になります。
01遠隔操縦シミュレーターの開発事例の概要
大手建設機械メーカー様からのご依頼で、ショベルの遠隔操縦を体験できるシミュレーターを開発しました。シミュレーターは、海外で開かれた建設機械の展示会で公開されています。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| お客様 | 大手建設機械メーカー様 |
| 開発したもの | ショベルの遠隔操縦を体験できるシミュレーター |
| 使われた場面 | 海外の建設機械の展示会での展示・体験 |
| 制作ソフト | Unreal Engine、3ds Max |

02シミュレーター開発で解決したかった課題
遠隔操縦は、離れた場所にいる人がモニターの映像を見ながら機械を動かす操作方法です。乗り込んで操作するのとは見え方も手ごたえも違うため、実際に手を動かしてもらわないと伝わりにくいという面があります。
一方で、展示会の会場に実機と遠隔操縦の設備を持ち込み、来場者に一人ずつ操作してもらうのは、場所の面でも安全の面でも簡単ではありません。そこで、実機の代わりに仮想空間の現場とショベルを用意し、来場者がその場で遠隔操縦の操作を体験できるシミュレーターを開発しました。
| 展示会で起きやすいこと | シミュレーターでの対応 |
|---|---|
| 重機を会場に持ち込みにくい | 仮想空間に現場とショベルを再現する |
| 来場者が操作すると危険がある | 仮想空間なので、ぶつけても壊れない |
| 体験の時間が限られる | 数分で終わる課題にする |
| 海外の来場者が多い | 画面の文を開催国の言葉にする |
マーケターのひとこと
シミュレーターの相談では、「何を再現するか」より先に「だれが、どこで、何分使うか」が決まっていないことがよくあります。展示会で数分だけ体験するのか、研修で何時間も練習するのかで、操作の難しさも画面の作りも変わります。使う人と場面、1回の時間を書き出してから相談すると、見積もりと仕様の話が早く進みます。
03初めての人でも操作できるようにした工夫
展示会の来場者は、ショベルの運転に慣れている人ばかりではありません。説明を聞く時間も限られます。そこで、画面を見ただけで何をすればよいか分かる作りにしました。
運転席からの視点をそのまま再現する
画面は運転席に座ったときの視点にし、窓の枠やレバーも映るようにしています(図1)。運転席の枠が見えていると、自分がどこに座って何を動かしているかが分かりやすくなり、画面の動きにも酔いにくくなります。
1つの課題と残り時間を画面に出す
体験は「指定の場所の石をダンプトラックに積む」という1つの課題にしぼりました。画面の上に課題の文を、右上に残り時間とトラックの絵を出しているので、来場者は説明がなくても、何をどれだけの時間でやればよいかが分かります。課題の文は、開催国の言葉(フランス語)で表示しています。
04シミュレーター開発の成果
開発したシミュレーターは、海外の建設機械の展示会で公開され、来場者が遠隔操縦の操作を体験できる展示になりました。実機を会場に持ち込まずに、新しい操作方法を来場者自身の手で試してもらう場をつくれたことが、この案件の成果です。
このように、展示会向けに作ったシミュレーターは、課題や画面を作り変えれば、社内の研修や営業の説明にも使えます。
マーケターのひとこと
展示会用に作ったシミュレーターが、あとで社内の研修や営業の説明に使われることもあります。最初から別の用途に使うと決まっていなくても、操作の記録を残せる作りにしておくと、あとで研修用に広げやすくなります。展示のあとの使い道を、企画の段階で一度話し合っておくことをおすすめします。
05シミュレーター開発に使った技術
この案件では、ゲームエンジンのUnreal Engineと、3DCGソフトの3ds Maxを使いました。
| 技術 | 使い道 |
|---|---|
| Unreal Engine | シミュレーターの本体。機械の動きを動かし、操作の入力を受け取って画面に反映する |
| 3ds Max | ショベルやダンプトラック、現場の3DCGモデルを作る |
WANは、どう見せるかの企画から3DCGの制作、動きのプログラムまでを一つのチームで進めています。その後も建機シミュレーターの開発を続けており、自社開発の建機シミュレーター「メタトレ」では、3DCGと物理シミュレーションで建設現場を再現し、PCとVRヘッドセットのどちらでも操作の練習ができるようにしています。

06まとめ:体験用のシミュレーターは訓練とAIの学習にも広げられる
実機を用意しにくい場所でも、機械の操作は仮想空間で体験してもらえます。シミュレーターの開発を頼む前に、やっておくとよいことを3つにまとめます。
体験してほしい操作と場面を決める
だれに、どこで、何分体験してもらうのかを決めます。展示会なら数分で終わる課題に、研修ならくり返し練習できる課題にします。
説明がなくても進められる画面にする
課題の文、残り時間、目印などを画面に出し、初めての人でも何をすればよいか分かる作りにします。海外の展示会なら、表示する言葉も決めておきます。
あとの使い道まで考えて作る
展示のあとに研修や営業の説明に使うなら、課題を差し替えられる作りや、操作の記録を残せる作りにしておきます。機械と現場を仮想空間に再現する技術は、AIを学習させる環境にも使えます。その違いはフィジカルAIを学習させるシミュレーション環境の解説で紹介しています。
体験してほしい操作、使う人と場面、展示のあとの使い道の3つを書き出したうえで、シミュレーターの開発をご相談ください。
出典・参考
国土交通省「「i-Construction 2.0」を策定しました」(2024年4月16日) https://www.mlit.go.jp/report/press/kanbo08_hh_001085.html (2026年10月27日確認)

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