シミュレーター開発の費用はどう決まる? 建機の訓練用を作る前に決めておくこと
オーダーメイドの訓練用シミュレーターの費用を左右する7つの要素と、開発期間の進め方・費用を抑える方法
建機の操作訓練にシミュレーターを使いたい。社内でそう提案すると、最初に聞かれるのは「いくらかかるのか」です。ところが、オーダーメイドで作るシミュレーターには定価がありません。PCと市販のゲーム用レバーで動くものから、運転席を再現した筐体に座るものまで、同じ「ショベルのシミュレーター」でも中身が大きく違うからです。
それでもシミュレーターを検討する会社があるのは、実機では練習できない場面があるからです。厚生労働省の「令和6年の労働災害発生状況」によると、2024年に労働災害で亡くなった746人(新型コロナウイルス感染症によるものを除く)のうち、232人が建設業でした。重機と人が接触しそうな場面を、訓練のために現場でわざと起こすわけにはいきません。
開発の費用は、何を再現し、どの機器で動かし、どう使い続けるかで決まります。

この記事のポイント
費用は7つの要素の組み合わせで決まる
機械の数、操作機器と筐体、VRかPCか、物理の作り込み、シナリオ数、採点・記録、保守のどこに費用をかけるかで、金額が大きく変わります。
「中身・機器・仕組み」の3つに分けて、作り込む所を決める
用途によって、作り込むべき所と抑えてよい所は違います。全部を最高の水準にする必要はありません。
試作で確かめてから広げると、費用と期間を読みやすい
1機種と少ないシナリオで試作し、使う人に試してもらってから機能を足すと、作り直しが減ります。
01シミュレーター開発の費用を決める7つの要素
訓練用シミュレーターでは、3Dモデルやプログラムを作る作業が増えるほど、また調整に試行錯誤が要るほど、費用が上がります。金額を左右する要素は、次の7つです。
| 要素 | 費用を抑えやすい条件 | 費用が上がる条件 | 理由 |
|---|---|---|---|
| 再現する機械の数 | 1機種だけ | 複数の機種・型式 | 機種ごとに3Dモデル、動きの調整、レバーへの操作の割り当てが要る |
| 操作機器・筐体 | 市販のゲーム用レバー | 運転席を再現した専用筐体、体を揺らすモーションシート | 筐体は設計・製作・配線を1台ずつ行い、運搬と設置の費用もかかる |
| VRかPCか | どちらか一方 | PC画面とVRの両方 | 画面ごとに視点・メニュー・動作確認が要る。VRは酔いにくいコマ数を保つための調整も加わる |
| 物理の作り込み | 決まった動きを再生する | 土を掘る・積む、油圧の反応の遅れ、荷の重さ | 実機の動きと見比べて設定値を合わせ込む作業に、回数がかかる |
| シナリオの数 | 少数で内容を固定 | 多数、または利用者が編集できる | シナリオごとに地形・配置・成功と失敗の判定を作る。編集機能は別の開発になる |
| 採点・記録 | 作業時間の計測だけ | 項目ごとの採点、受講者の管理、成績の画面 | 採点の基準を決める打ち合わせと、データの保存・閲覧の仕組みが要る |
| 保守 | 納品して終わり | 機器やOSの更新への対応、機能追加、サーバーの運用 | 使う年数のあいだ費用が続く |
なかでも差が出やすいのは物理の作り込みで、土の崩れ方まで実機に近づけるには、動きを試しては直すことをくり返します。人の訓練用とAIの学習用で求める精度の違いは、フィジカルAIを学習させるシミュレーション環境で解説しています。
7つの要素は、再現する中身(機械の数・物理・シナリオ)、使う機器(操作機器と筐体・VRかPCか)、使い続ける仕組み(採点・記録・保守)の3つにまとめられます。
マーケターのひとこと
見積もりの比較で見落とされやすいのが、保守の範囲です。開発費が同じくらいでも、OSの更新や機器の買い替えに対応してくれるかどうかで、数年後にかかる費用は変わります。見積もりを取るときは、何年使う予定かを伝えて、保守に含まれる作業を書き出してもらうと、条件をそろえて比べられます。
02操作機器と画面の組み合わせで比べる4つの構成
7つの要素のうち、置く場所や訓練の中身にまで影響するのが機器の選び方です。操作機器(市販のゲーム用レバーか専用の筐体か)と画面(PCのモニターかVRヘッドセットか)の組み合わせで、構成は4つに分かれます。


| 構成 | 機器の費用 | 置く場所 | 操作の再現 | 向いている用途 |
|---|---|---|---|---|
| PC+ゲーム用レバー | 低い(市販のPCとレバー) | 机1つ分。持ち運びもできる | レバーの位置や手ごたえは実機と違うことがある | 基礎操作の反復、複数の拠点での研修 |
| PC+専用筐体 | 高い(筐体の製作費) | 筐体を置く床と、運び込める入口が要る | 座る位置とレバーの配置を実機に合わせられる | 実機に近い操作の練習、展示 |
| VR+ゲーム用レバー | 中くらい(ヘッドセットが加わる) | 机1つ分と、ケーブルや充電の場所 | 周りを見回せて、距離感がつかみやすい | 周囲の確認、危険な場面の体験 |
| VR+専用筐体 | 最も高い | 筐体の場所と、機器の管理 | 視界と操作の両方を実機に近づけられる | 没入感を重視する訓練や展示 |
ヘッドセットの価格は、Metaの公式サイトではMeta Quest 3(512GB)が102,300円です。ただし、VRに対応させる費用はヘッドセット代だけでなく、視点の動きやコマ数を酔いにくいように調整する開発の作業が加わります。
VRで酔う人は珍しくないため、VRで作る場合も、PC画面で同じ訓練を受けられるようにしておくと、受講者を選ばずに使えます。酔いの原因と対策はVR酔いの原因と対策にまとめています。
03用途別のおすすめ構成
どこに費用をかけるべきかは、何を訓練したいかで決まります。よくある4つの用途で、作り込む所と抑えてよい所を並べます。
| 用途 | おすすめの構成 | 作り込む所 | 抑えてよい所 |
|---|---|---|---|
| 新人の基礎操作の反復 | PC+ゲーム用レバーを複数台 | レバーの操作への機械の反応、作業時間や正確さの記録 | 遠くの景色、機種の数 |
| 危険な場面の安全教育 | PCかVR+ゲーム用レバー | 人や埋設物の配置、危険な場面のシナリオ、失敗したときの見せ方 | 筐体、物理の細かさ |
| 展示会・採用イベントでの体験 | 専用筐体 | 見た目、数分で終わる体験の流れ | 採点の項目、受講者の管理 |
| 習熟度の評価・操作データの記録 | PC+ゲーム用レバーか専用筐体 | 記録する項目、データの書き出し、成績の画面 | 景観の作り込み、シナリオの数 |
安全教育なら、土の崩れ方を精密にするより、「地中に水道管がある」「作業の範囲に人が入ってくる」といった場面を何通りも用意するほうが役に立ちます。反対に基礎操作の練習では、レバーへの機械の反応が実機と違うと、覚えた操作が現場で通用しません。
なお、シミュレーターでの訓練は法令の資格の代わりにはなりません。労働安全衛生法施行令の第20条は、機体重量3トン以上のショベルなどの運転を、資格を持つ人でなければ就けない業務と定めています。シミュレーターは、資格を取る前の慣らしや、資格を取ったあとの危険な場面の体験に使うと考えて、訓練の計画を立てましょう。
マーケターのひとこと
展示会では、専用筐体の前に人が集まりやすい一方、社内の研修では、数台を並べて同時に練習できる構成のほうが使われることもあります。1つのシミュレーターに「展示でも研修でも」と役割を詰め込むと、費用が上がりがちです。まず一番使う場面を1つ決めて、その場面に合う構成を選ぶと、作り込む所を絞れます。
04開発期間の進め方と見積もりの前に決めること
構成と作り込む所が見えてきたら、次は開発の進め方です。一度に完成品を作らず、試作を使う人に試してもらってから本開発に進むと、作り直しが減り、期間も読みやすくなります。

| 段階 | やること | 発注する側が用意するもの |
|---|---|---|
| 1 要件の整理 | 訓練の目的、機種、構成、シナリオ、採点の項目を決める | 訓練の目的と対象者、今の研修の内容 |
| 2 試作 | 1機種・少ないシナリオで、操作と画面を作る | 機種の資料、操作の手順 |
| 3 体験と評価 | 使う人や指導する人に試してもらい、直す所を決める | 試してもらう人と時間 |
| 4 本開発 | シナリオ、採点・記録、筐体などを作り込む | 現場の図面や写真、採点の基準 |
| 5 導入 | 設置、動作確認、指導者向けの説明 | 置く場所、PCやネットワーク |
| 6 保守・追加 | 不具合の修正、機器の更新への対応、シナリオの追加 | 使ってみての意見 |
WANの建機シミュレーター「メタトレ」でも、2025年2月の体験会で専用のコックピット筐体とゲーム用レバーの両方を試してもらい、いただいた意見から操作性や視認性、画面の構成を直して、4月に改良版を体験していただきました。
見積もりを依頼する前に次のことを決めておくと、複数の会社の金額を同じ条件で比べられます。
| 決めておくこと | 理由 |
|---|---|
| 訓練の目的と対象者(新人・経験者・展示の来場者) | 作り込む所が決まる |
| 再現する機種と型式 | 3Dモデルと動きの調整の量が決まる |
| 置く場所と台数 | 筐体を置けるか、ゲーム用レバーにするかが決まる |
| PC画面かVRか、その両方か | 画面ごとの開発と動作確認の量が決まる |
| シナリオの数と中身 | 地形・配置・判定を作る量が決まる |
| 採点で何を見るか | 記録する項目と、成績の画面の作りが決まる |
| 使う年数と保守の範囲 | 開発費のほかに続く費用が決まる |
05シミュレーター開発の費用を抑える4つの方法
費用をかける所が決まれば、残りの部分は抑えられます。訓練の質を落とさずに費用を抑える方法を4つ挙げます。
1機種と少ないシナリオから始める
1機種と基本のシナリオで作り、使ってみてから足すと、要らない機能に費用をかけずに済みます。そのかわり、最初の開発のときに、あとから機種やシナリオを足せる作りにしてもらいます。
市販の操作機器を使う
専用の筐体は1台ずつ製作するため、台数に比例して費用が増えます。基礎操作の反復が目的なら、ゲーム用レバーとPCにして、浮いた費用を台数やシナリオに回せます。
手もとの図面や3Dデータを渡す
現場や機械の3Dモデルを一から作るのは、時間のかかる工程です。図面、BIM/CIMのデータ、ドローンや3Dスキャナーの計測データがあれば、それをもとに訓練の場所を作れることがあります。
シナリオは利用者が作れる形にするか先に決める
シナリオを追加するたびに開発会社に頼むと、そのつど費用がかかります。利用者が地形や障害物を置いてシナリオを作れる機能を付けると、開発費は上がりますが、追加の発注は減ります。何年使い、どのくらいシナリオを増やすかで、どちらが安くなるかが変わります。

この機能の例は、メタトレ開発レポートで紹介しています。
マーケターのひとこと
図面や現場の写真は、社内のどこかに眠っていることが多いものです。相談の段階で「こういうデータならあります」と分かると、開発側はどこを一から作るかを早く判断できます。相談の前に、使えそうな図面・3Dデータ・現場の写真の一覧を作っておくのがおすすめです。
06既製品とオーダーメイドを選べるWANの建機シミュレーター開発
費用を抑える一番の近道は、既製品で足りる部分を既製品で済ませることです。WANは、自社で開発する建機シミュレーター「メタトレ」と、オーダーメイドのシミュレーター開発の両方を手がけています。これまでに、通信、建設機械、鉄道などの大手企業のシミュレーション環境も開発してきました。

- 既製品のメタトレ:ショベルの操作訓練と、危険な場面を入れた安全教育ができるシミュレーターです。PCとVRヘッドセットで導入でき、シナリオを現場に合わせて変えられ、操作の記録から習熟度を数値で振り返れます。販売とリースの相談を受け付けています(CSPI-EXPO 2026のレポート)
- オーダーメイドの開発:Unreal Engineで実機の訓練に近い環境を作り、操作機器は専用のコックピット筐体と、省スペースで低価格なゲーム用レバーから選べます。操作のログは自動で集め、ダッシュボードで確認できます
ソフトとハードの構成は、ショベルシミュレータ開発サービス資料で紹介しています。「既製品で足りるか、どこからオーダーメイドにすべきか」といった、構成を決める前の段階からご相談いただけます。
07まとめ:シミュレーター開発の費用は「中身・機器・仕組み」の3つで考える
オーダーメイドのシミュレーターに定価は無く、費用は7つの要素の組み合わせで決まります。見積もりの前に、次の3つを社内で決めておきましょう。
中身:訓練の目的に合わせて再現する範囲を絞る
機種の数、物理の細かさ、シナリオの数は、訓練の目的から決め、目的に直結する所に費用をかけます。
機器:置く場所と台数から構成を選ぶ
専用筐体かゲーム用レバーか、PC画面かVRかは、置ける場所、同時に練習する人数、酔いやすい人への備えで選びます。
仕組み:使う年数から採点・記録と保守の範囲を決める
採点で何を見るか、何年使うかで、開発費とその後の費用の配分が決まります。1機種と少ないシナリオで試作して、使う人に確かめてから広げると、作り直しを減らせます。
シミュレーターの開発を検討するときは、訓練の目的、置く場所と台数、使う年数の3つを書き出してから、見積もりを依頼することをおすすめします。
出典・参考
厚生労働省「令和6年の労働災害発生状況を公表」 https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_58198.html (2026年10月27日確認)
e-Gov 法令検索「労働安全衛生法施行令」(第20条第12号) https://laws.e-gov.go.jp/law/347CO0000000318 (2026年10月27日確認)
Meta「Meta Quest 3」 https://www.meta.com/jp/quest/quest-3/ (2026年10月27日確認)

ご相談
訓練用シミュレーターの開発
建機などの訓練用シミュレーターを、目的と予算に合わせてオーダーメイドで開発します。既製品のメタトレで足りるかどうかも含めて、構成を決める前の段階からご相談いただけます。


