図面がないと見積もれない? シミュレーターを外注する前に用意するものチェックリスト
訓練用のシミュレーターやAI学習用のシミュレーション環境を発注する前に、自社で決めること・集める資料・開発会社と決めることを整理します
開発会社にシミュレーターの見積もりを頼むと、金額より先に「だれが使うのか」「どこまで再現するのか」「機械の図面はあるか」といった質問が並ぶことがあります。答えがそろわないまま進めると、見積もりは幅の大きいものになり、作り始めてから仕様が変わる原因にもなります。
情報処理推進機構(IPA)の「ユーザのための要件定義ガイド 第2版」には、システムの要件を定義する責任は、そのシステムを使ってビジネスに貢献するユーザにあると言われている、という一文があります。シミュレーターも同じで、何のためにだれが使うのかは、開発会社が代わりに決められることではありません。
一方で、再現の精度や検収の方法のように、発注側だけで決めると無理が出る項目もあります。人が操作する訓練用のシミュレーターでも、AIを学習させるシミュレーション環境でも、発注前に「自社で決めること」と「開発会社と決めること」を分けておくと、相談が早く進みます。

この記事のポイント
目的・使う人・再現する範囲は、発注側が先に決める
人が操作するのか、AIが学習するのかで、用意する機器も資料も変わります。再現する範囲は「必ず要る・あればよい・要らない」に分けておきます。
機械とセンサーの仕様と既存の3Dデータは、手もとから集める
型番、取り付け位置の図面、3Dモデル、計測データは、開発会社が外から手に入れられない資料です。出せないものは、理由と一緒に一覧にしておきます。
再現の精度と検収の方法は、開発会社と一緒に決める
どこを細かく作るか、何を確かめれば完成とするかは、資料を見ながら決めます。合否の基準は、契約の前に決めておきます。
01シミュレーターの外注前に準備しておくとできること
準備の目的は、資料を完璧にそろえることではなく、開発会社が見積もりと設計に使う情報を最初の打ち合わせで渡せるようにすることです。準備ができていると、次のことができるようになります。
- 見積もりを同じ条件で比べる:複数の会社に同じ資料を渡せば、金額の差が作る範囲の違いなのか、進め方の違いなのかを見分けられます
- 作り直しを減らす:使う人や機器があとから変わると、操作の仕組みや画面の作りから直すことになります
- 検収で迷わない:何ができれば完成かを先に決めておけば、納品のときに確かめる項目がはっきりします
ただし、すべてを発注側だけで決める必要はありません。項目ごとに、だれが決めるかを分けると次のようになります。
| 項目 | 決める人 | 理由 |
|---|---|---|
| 目的と使う人 | 発注側 | 業務の課題と、使う場面を知っているのは発注側だけ |
| 再現する範囲(機械・場所・場面) | 発注側 | 訓練や学習で何を扱うかによって決まる |
| 評価の基準 | 発注側(数値にする方法は一緒に) | 何ができれば合格かは、業務の基準による |
| 予算と時期・社内の体制 | 発注側 | 社内の決裁と、使い始める時期による |
| 再現の精度(どこを細かく作るか) | 開発会社と一緒に | 手もとの資料と、作る技術の両方を見ないと決められない |
| 使う機器の構成 | 開発会社と一緒に | 予算や設置場所と、描画の性能の両方が関わる |
| 検収の方法 | 開発会社と一緒に | 確かめ方を、作る側も実行できる形にする必要がある |
次の章では、このうち発注側が用意するものを、チェックリストにして並べます。
02シミュレーター外注の発注前チェックリスト
チェックリストは、自社で決めることと、手もとから集める資料の2つに分かれます。埋まらない欄があっても、それが分かっていれば最初の相談で詰める所がはっきりします。
発注側が決めること
| 決めておくこと | 書き方の例 | 決めていないと起きること |
|---|---|---|
| 目的 | 「新人が〇〇の操作手順を、実機に乗る前に覚える」のように1文で | 機能が増え続け、予算と期間がふくらむ |
| 使う人(人かAIか) | 人:人数・経験・年齢層/AI:どのセンサーのデータで何を判断するか | 用意する機器と資料が決まらない |
| 再現する範囲 | 機械・場所・場面を「必ず要る・あればよい・要らない」に分ける | 作り込む所と省く所の線が引けない |
| 評価の基準 | 人:作業時間・接触の回数など/AI:作業の成功率など | 完成したかどうかを判断できない |
| 予算と時期 | 予算の上限、使い始める時期、動かせない日 | 試作の範囲と段階の分け方を決められない |
| 社内の体制 | 窓口、現場の確認役、決裁者 | 確認待ちで開発が止まる |
使う人が人かAIかで、準備の重みは変わります。人が操作する訓練用なら、レバーや画面、VRの見え方など、操作する機器の条件が中心です。AIを学習させる環境では、センサーの型番と現場の計測データが、仮想空間の正しさを左右します。その理由はフィジカルAIを学習させるシミュレーション環境の記事で解説しています。
再現する範囲は、現場を層に分けると整理しやすくなります。メタトレのフィールドカスタマイズ機能では、建機や人・車の層、地形の層、地中の埋設物の層に分けています。

手もとから集める資料
| 資料 | 中身 | 出せないときの代わり |
|---|---|---|
| 機械とセンサーの仕様 | 型番、寸法、動く範囲と速さ、センサーの取り付け位置と向きが分かる図面 | カタログの値と、実機の写真に寸法を書き込んだもの |
| 既存の3Dモデル・図面 | CADデータ、設計図、ほかの用途で作った3DCG | 外形の図面と、四方から撮った写真 |
| 現場の計測データ | 点群や3DGS(3Dガウシアンスプラッティング)、測量図、実機を動かして記録した操作とセンサーのデータ | 開発会社による計測(範囲と日程を相談) |
| 使う機器の条件 | PC・VRヘッドセット・筐体の有無、設置場所の広さと電源 | 候補を2〜3案に絞り、試作で決める |
マーケターのひとこと
図面や3Dデータは、ファイルそのものより「読み方」が分からずに止まることがあります。取り付け位置の図面なら、機械のどこを基準にした寸法なのか、単位がミリかメートルかで、仮想空間に置く位置が変わります。計測データにも、いつ計測したものか、そのあとで変わった設備はどこかを書き添えておくと安心です。資料の一覧に「形式・単位・基準の位置・作った日」の4列を足しておくだけで、最初の打ち合わせの質問がかなり減ります。
03開発会社と一緒に決める5つの手順
チェックリストがそろったら、残りの項目を開発会社と詰めていきます。順番は次のとおりです。
- 資料を見せて使える部分と作り直す部分を分ける:ほかの用途で作った3Dモデルは、アームやバケットなどの動く部品が分かれていないことがあります。そのまま使えるか、分け直すか、作り直すかを、資料を見てもらって決めます
- 再現の精度を範囲ごとに決める:チェックリストで「必ず要る」とした範囲は図面や計測データの寸法で作り、「あればよい」範囲は見た目を簡単にするなど、範囲ごとに作り込みの度合いを決めます
- 使う機器で試作を触る:実際に使う人に、本番と同じPCやヘッドセット、筐体で試作を操作してもらいます。VRを使う場合は、酔いやすさもこの段階で確かめます(VR酔いの原因と対策)
- 検収の方法と合否の基準を決める:どの場面を、どの機器で、だれが確かめるのか、何ができれば合格かを決めます。数値にできる基準は数値で書き、決めた内容は契約の前に文書にしておきます
- 変更の受け付け方と確認の日程を決める:試作を触ったあとに変更したい所が出るのは珍しくありません。どの時期までの変更を見積もりに含めるか、確認の打ち合わせをどの頻度で行うかを、窓口と一緒に決めます

とくに3の試作は、机の上の打ち合わせでは分からない違いが出やすい段階です。モニターで見るのかVRで見るのか、レバーはゲーム用か専用の筐体かで、操作の感覚も必要な予算も変わります。
マーケターのひとこと
ふだん新人を教えている指導者に、「ここができたら合格」という場面を3つ挙げてもらうと、検収の基準のたたき台ができます。発注の担当者が一人で基準を書こうとするより、ずっと早く進みます。現場の言葉で書かれた場面は、開発会社が確かめ方に置きかえやすく、試作を触ってもらうときのチェック項目にもそのまま使えます。
04準備がうまくいかないときの対処
資料がそろわないまま相談が始まることもあります。そろわないことを理由に相談を止めるより、次の手を選んで進めるほうが早く形になります。
| 困りごと | 次の手 |
|---|---|
| 図面やCADデータが社外秘で出せない | 秘密保持契約を結んだうえで、外形や取り付け位置など必要な部分だけを渡す |
| 3Dモデルが無い | 写真と寸法から作るか、現場や機械を3D計測する(点群と3DGSの違い) |
| センサーの型番がまだ決まっていない | 候補の型番で仮に作り、あとで差し替えられるように設定を分けておく |
| 評価の基準が決まらない | 試作で熟練者と新人に同じ課題をしてもらい、差が出た項目を基準の候補にする |
| 予算が足りない | 再現する範囲を「必ず要る」に絞って1段階目を作り、効果を見てから広げる |
| 社内の意見がまとまらない | 試作を現場の人に触ってもらい、意見を集めてから仕様を決める |
ただし、資料の無い部分は、開発会社が写真や一般的な値から推測して作るしかありません。その部分には現実との差が残ります。推測で作った部分を一覧にして、検収の対象から外すか、あとで計測して直す段階を予算に入れておくと、完成してから「実機と違う」ともめるのを防げます。
05訓練用からAI学習用まで手がけるWANのシミュレーター開発
WANは2010年に創業し、3DCGやXRによる仮想空間づくりと、建機などのシミュレーターの開発を続けてきました。これまでに、通信、建設機械、鉄道などの大手企業のシミュレーション環境も開発しています。
受託開発は、ご相談のあと、ヒアリングと課題の分析、設計・要件定義、試作と検証、制作・開発、導入とトレーニング、導入後のサポートの順に進めます。この記事のチェックリストに埋まらない欄があっても、構想の段階からご相談いただけます。

- 機器の組み合わせ:自社開発の建機シミュレーター「メタトレ」はUnreal Engineで作り、専用のコックピット筐体とゲーム用のレバーコントローラーのどちらでも使えます。大型モニターやVRヘッドセットでの利用にも対応しています
- 訓練用のシミュレーター:現場や機械の再現から、操作の機器、訓練の場面づくりまで開発します
- AI学習用のシミュレーション環境:現場の3D計測から、仮想空間、機械とセンサーの再現まで開発します
06まとめ:シミュレーターの外注準備は「決める・集める・一緒に決める」で進める
シミュレーターの要件を決める責任は、使う側にあります。そのうえで、開発会社の力を借りる所を分けておくと、相談から見積もりまでが早く進みます。
決める:目的と使う人を1文にする
何のために、だれ(人かAIか)が使うのかを1文で書き、再現する範囲を「必ず要る・あればよい・要らない」に分けます。評価の基準、予算と時期、社内の窓口もここで決めます。
集める:型番と図面と3Dデータの一覧を作る
機械とセンサーの型番、取り付け位置の図面、既存の3Dモデル、計測データを集め、出せないものは理由と一緒に一覧に入れておきます。形式・単位・基準の位置・作った日も書き添えましょう。
一緒に決める:検収の基準を契約の前に決める
再現の精度と機器の構成は、資料と試作を見ながら開発会社と決めます。何ができれば合格かは、指導者の言葉をもとに、契約の前に文書にしておきます。
目的を1文にしたメモと、手もとの資料の一覧の2つを持って、開発会社に相談することをおすすめします。
出典・参考
情報処理推進機構(IPA)「ユーザのための要件定義ガイド 第2版 ~要件定義を成功に導く128の勘どころ~」(2019年9月12日公開) https://www.ipa.go.jp/archive/digital/iot-en-ci/jyouryuu/youkenteigi20190912.html (2026年10月27日確認)

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